私は、「メガベンチャー」といえば多くの人が最初に思いつく企業で働いているのですが、最近新規事業開発をする機会があったのでそこでの経験をもとに表題の気づきを書きます。
基本的には、アイディアに価値がないということに対しては賛成です。その理由をご紹介していきます。
「アイディアに価値はない」という言葉の意味
アイディアとは、何でしょうか。
①
「ひらめき」や、ぱっと思いついた「そうである可能性」とも言いかえられると思います。
つまりアイディアとは、「まだ検証されていない仮説」なのです。
新規事業開発とは、まさにこの「まだ検証されていない(この世にない)仮説」を小さな検証を繰り返すことで事実にしていく一連の作業です。
「仮説を立てる」ことも確かにはじめの一歩ではありますが、私の経験からいうと、1つのそれらしい仮説を立てるよりも、それを検証することのほうが圧倒的に難しいです。
そのため、「アイディアに価値がない」といえるほどに検証のほうが難易度が高く、多くの人が挫折します。
これから、なぜ難易度が高いのか、新規事業開発の初期検証プロセスをなぞりながら説明します。
新規事業開発の初期プロセスとぶつかる壁
ここでは、年間売上100億円くらいを目指す事業について記載します。
月々売上10万円くらいであれば、ここまで考える必要はないと思います。
初期仮説を立てる(アイディアを出す)
まずは、「アイディア」を立てます。
こうだったらもっと楽しいんじゃないか、欲しい人がいるんじゃないか、この世がもっとよくなるんじゃないかといった自分の中の思いつきです。
この時点では課題よりも打ち手を思い浮かべることが多く、こういうアプリや施設があったらいいとかこういうマッチングが生まれたらいいとかです。
自分の置かれた境遇にもよりますが、モノがある程度満たされた世の中なので「こうだったらいいのに!」すら絞り出すのは思っているより大変です。
ここでは、リーンキャンパスを使ってアイディアを整理すると良いと思います。
顧客は誰か、課題はなにか、解決策はなにか、コストや収益構造はどのようなものかをざっくり整理します。
ここでの壁は、「数百万人が悩んでいそうなのに、すでにこの世に全く同じサービスが存在しない・あるいはイマイチなサービスしかない」というアイディアを残すことです。
多くの課題は、すでに解決されているか解決できるサービスがこの世に存在します。
例えば、家にあるいらないものを売りたいのに売れない、という課題に対してはメルカリがあるよね、となります。
また、今はサービスがない場合でもほんの少しの人しか困っていない(≒マーケットが小さい)ところはサービスができてもなかなか大きくなりにくいので、ムズカシイと思います。
自分ひとりだけでは原体験が限られるので、身近な人とブレストしながら困っていることを言い合うとアイディアが出やすいと思います。
ここでは、1つのアイディアに固執しすぎるよりも他にないのか?を柔軟に考えてみるのがいいと思います。
「顧客は誰か」「顧客の課題はなにか」を検証する
よさそうなアイディアができたら、次は本当にニーズがあるのか?を確かめていきます。
そのサービスに関わる人は誰ですか?
モノを売るのであれば、それを誰が買いますか?あるいは、誰がそれを作るのですか?製造や販売において協力してくれる人は誰ですか?
必要な登場人物を洗い出し、その人達がなぜ行動を起こしてくれるか考えていきます。
多くの場合、人が行動を起こすときはなにか課題を抱えています。
例えばご飯を買いに行くのが面倒くさいからUbereatsを頼むし、人手が足りないからクラウドワークスで募集したりします。
この「めんどくさい」や「人手不足」が課題です。
自分のアイディアを実現するために必要な登場人物がなぜ行動を起こすのか、その人達の課題を想像し、課題仮説を立てます。
課題仮説を立てるには、ある程度その人たちのことをわかっていなければなりません。
その人達が普段どう過ごしているのか、業務はどんな流れで行っているのか、その業界は何に頭を悩ませているのか。
ググってわかることはある程度ググりましょう。
ただもちろんそれだけでは明確にならないと思うので、次は実際にその登場人物に会いに行き話を聞きます。
どうやって会うのでしょうか。
答えは、「自力で頑張る」です。
手当り次第知り合いに声をかけて話を聞かせてもらえる人に繋いでもらえないかお願いしたり、それでもだめなら直接電話するなどしてアポを取ります。
100億円のビジネスならば登場人物は1人や2人ではないので、同じロールの登場人物でも何人かに聞いてみないと本当のことがわからないはず。同じ質問でも何人かに確認してみます。
この段階での難しさは、アポ取りではありません。
難しいのは、「なぜ本当に困っていると言えるのか」を明らかにすることです。
深刻な悩みであればあるほど、すでに解消に動いているはずです。
なぜ今彼らは行動に移していないんでしょうか。
最も大きい理由は、「それほどまでは困っていないから」です。
お金を払ってまで、リソースを割いてまで、解決するほどの悩みではないから動いていないんです。ここに行き着いたらまた課題仮説に戻りましょう。解決すべきはそこではないことがわかりました。(ちなみに、無理やり思い込んで、いや困っているはずだ!と結論づけるのは時間を無駄にするだけなのでやめたほうがよいです。)
次の大きな理由は、「すでに当たり前になっており、諦めているから」です。
この場合は、もし圧倒的によいプロダクトがあれば、もしくはあともう一歩(法改正等の)やらなくてはいけない理由が付加されたら行動する可能性がありますね。
でも、当たり前になっているとはいえ困っているはずなのに行動していない理由があるはずなのでそれが明らかにならないうちは喜ぶのはまだ早いです。
例えば、大変だけどそこにコストをかけるより今のやり方で猛烈に頑張ったほうが売上が上がるなら、無理に今解決しにいく必要はないので。
このように、「なぜ”彼ら”は『いま』困っているのか」を仮説と調査を繰り返しながら明らかにしていきます。
”彼ら”とは、ターゲットを指しますが、例えば不動産仲介業者の中でも従業員30名以下でやっている会社だけが困っているということが明らかになっていれば良いと思います。
また、『いま』に関しては、例えば法改正がありそうなので労働環境への規制が厳しくなりこれまでのような労務管理では今後は摘発対象になることが予想される、などがあるとさらに「本当に困っている」といえるでしょう。
進行上のその他の困りどころとしては、検証を繰り返すうちにアポも取りづらくなるし、初対面の人に自分が困っていることを赤裸々に話す人は少ないので本音を引き出すことができなかったりします。仮説もだんだん思いつかなくなり、「このサービスは筋がない」と諦めたくなったりもします。もしくは、なかなか批判的に自分の仮説を見ることができずに甘い状態でプロダクトを作ろうとして無意味な時間を過ごします。
自分自身も、使える時間やお金や体力が限られている中で、この検証プロセスを高速で回すのはものすごいパワーが必要ですので、そこに向き合い続けることはなかなか大変かなと思います。
「顧客の課題を解決する方法」「解決策の実現性・優位性」を検証する
もし顧客(登場人物)の課題にたどり着くことができたら、それはどのように解決されるべきか考えます。
多くは課題を考えながら解決策も一緒に考えると思います。こうだったらいいんじゃないか、というふうに。
解決策と一緒に考えなければならないのは、その策の実現性と優位性です。
例えば、ものすごくよさそうな策だけど初期開発に1億円開発にかかりますとかは難しいと思います。
あとは、顧客がその解決策(サービス)を使う中で、利用に無理や負荷がないか?価格は高すぎないか?も検証します。
課題が深刻であればあるほど顧客は対価(お金)を支払うと思いますが、今まさに自分の訪れていない潜在的な課題やニーズに対して、顧客が支払えるお金やリソースはそこまで大きくはないはずです。
また、課題が深刻であってもそもそも顧客にキャッシュがなければ支払うことができません。
顧客は、これまでなにか別のものに使っていたキャッシュやリソースをそのサービスに投下します。何にも使っていないように見えても利益として今後の店舗展開の投資に活用したいと思っているとか、将来のために貯蓄しているとか、現時点での用途があるはずです。
そこをひっくり返して、このサービスに投下するだけの理由があるか(ものすごく楽になるとか将来的には今の投資以上にもっと価値がでそうとか)、顧客のニーズにマッチする価格や負荷になっているかは冷静に検討します。
ここでも、登場人物に実際に感覚を聞いて精緻化しましょう。
そして、同じようなサービスがこの世に存在する場合、そのサービスより自分のサービスがなぜよいのか、という点も明らかにしましょう。
自分がそう思うからではなく、客観的に定量的に他のサービスと比較したときにどのような違いがありますか?
それはなぜ自分では実現できるのでしょうか。そしてそれはすぐに模倣されてしまわないのはなぜでしょうか?
あるいは、模倣されたとしても事業として成り立つとしたらそれはなぜでしょうか。
一方で、事業性の観点としては、そのサービスにかかるコストと売上を鑑みて、本当に収益性の高いビジネスになるのかも問われると思います。
場合によっては、収益性よりも他の観点が重要視されるケースはあると思いますが、利益がでないビジネスは意味がありません。
なぜなら、そのサービスによって本当に誰かの課題が解決されるのであれば、「そのサービスが継続されること」もそのサービスの価値になるからです。
長々書きましたが、ここでの壁は実現性や優位性の検討自体ではなく、顧客がそこにお金を払ってもいいと思ってもらえるだけのストーリーがあるか、だと思います。
言い換えると、そのストーリーを聞き手に刺さるように伝えられるか、です。
顧客には、これまでのやり方や自分なりの考え、あるいは使うにあたって行わなければならない準備があるはずです。
そのようなハードルに対して、このサービスはどのように応えられるでしょうか。
どのようなストーリーであれば、顧客は納得し、喜んでお金を払うのでしょうか。
課題や解決策の実現性などを明らかにする中で、顧客が喜ぶポイントを掴んでいれば、適切な伝え方が見つかると思います。
どんなにいいサービスでも、伝え方次第でそれは陳腐でつまらないその他多くのサービスと一緒だと考えられてしまうので、目の前の人が喜んでくれる伝え方がこの段階では重要になると思います。
なぜなら、この時点ではまだプロダクトや販路がないはずなので、次の検証にて実際にプロトタイプを用いて次の検証をしなければならないからです。そのときに協力してくれる人たちを集めておく必要があります。
新規事業の初期の初期の検証については、ここまでです。
新規事業開発における「アイディア」の価値はなにか
アイディアは、はじめの一歩です。
その観点では、たしかに価値があります。
でも、本当に価値があるアイディアは、ここで書いた初期プロセスとこのあとの検証フェーズにおいて実際に価値が認められたものだけなので、それが明らかではない「検証されていない仮説」のままでは価値があるとは言えません。
そのため、「アイディアに価値がない」ということが言われているのだと思います。
最後に、私は新規事業開発に関しては初心者なので、ここで書いたのはあくまで新たな事業を作る上での1つの考え方です。
他にもたくさんやり方や考え方はあると思います。
ただし、基本的には上記の問いにいつかは答えられなければならないと思うので、自分の備忘録としてもこの記事を残しておきます。